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『ゲームの中の怪物たち』第一回 スライム 泉井夏風

ファンタジー世界を舞台にしたゲームには

ほとんどの場合モンスターが登場する。


モンスターたちはプレイヤーの操る

キャラクターの障害として立ちふさがり、

時には仲間になったりもする。


それぞれのゲームによって

モンスターの立ち位置は大きく変わるが、

ゲーム世界に欠かせない存在だ。


そんな脇役たちについて

ゲームを制作する立場から

思うところを書いてみたいと思う。



さて、第一回はとても有名なモンスター

スライムについて語ってみたい。


スライムとは、どろどろねばねばした物体を

指す言葉で本来怪物の名前ではない。


しかし、どろどろねばねばというのは

容易に嫌悪感を掻き立てる形質である。

打ち倒すべき敵の性質としては悪くない。


想像でしかないが、スライムというモンスターを

発明したクリエイターは

初めは気持ち悪い敵、程度の認識で

自分の作品に登場させたのではないだろうか。


スライムは近代的な怪物である。

粘菌や極小の原生生物に着想を得て

生み出されたであろうことは想像に難くない。


つまり、生物学の発展によって

語られるようになった

新しい怪物のイメージなのだろうと思う。


古今東西の神話や伝承に

登場する怪物ではないということだ。


伝統的な怪物と異なり、

この新しい怪物は“科学的”に

その生態が設定されてきた形跡が見受けられる。


スライムは原始的な食欲のみの怪物であり、

切断しようがすり潰そうが群体を

死に至らしめることはできない。


触れたものは何でも消化吸収してしまう

大変恐ろしい怪物だ。

映画の題材になったことで

このイメージは一般化していく。


火というわかりやすい弱点を持つことも、

最終的に人類が叡智によって勝利する

対象として大変都合が良い。


ところで、どろどろとしていて、

際限なく何でも飲み込んでいく恐ろしいもの。

それは自然界にひとつ存在する。


溶岩、いわゆるマグマだ。

もしかするとスライムという怪物のイメージには

このマグマも重ねられているのかもしれない。


ここからマグマスライムという

火に強いスライムを考えることができる。

だが、こいつにも弱点はある。

冷却してしまえば固まるのだ。


ファンタジー世界には概ね魔法が存在し、

吹雪を起こすようなことが可能である。

こういった上級魔法を操ることで

退治が可能なマグマスライムは

通常より強いスライムとして活用できる。


そう、ゲームのモンスターには

進行度に応じた強さの設定が必要なのだ。


毒素を持つなど色々な種類を用意できる

スライムは、このバランス調整に都合がいい。

ファンタジーゲームの定番となるのも当然だ。


日本でまだロールプレイングゲームというものが

メジャーではなかった頃、

つまり紙と鉛筆とサイコロを使っていた頃、

これを簡略化したビデオゲームが登場する。


誰もが知る有名作品なのだが、

不思議なことにこのゲーム、

前述の恐ろしい怪物スライムを

最も脅威度の低い最弱のモンスターとした。


しかもその見た目はどろどろねばねばしておらず

間抜けな愛嬌のある顔がついていた。

このスライムは後にタイトルの看板を背負う

マスコットキャラクターになった。


従来のスライムとは似ても似つかない

このモンスターはロールプレイングゲームに

不慣れなプレイヤーたちに

何の疑問も無く受容されていく。


するとどうだろう。

後発のゲームは序盤の弱い敵として

スライムを念頭に置いた、

ぷるぷるとした愛嬌のあるモンスターを

当たり前のように出すようになっていったのだ。


もちろん、従来のイメージに近い

武器の通用しない厄介な敵として

登場させるゲームも少なくはない。


しかし、一度人口に膾炙した“弱い”イメージは

なかなか抜けるものではない。


それを逆手に取って、昨今流行りの

異世界転生モノではスライムと侮って

危険な目に遭う描写も見受けられる。


私個人の考えとしても

スライムが弱いとは思えない。

先述の通り、火や魔法を使わなければ

倒すことのできない強敵であるべきだ。


単に武器で殴れば倒せるのではなく、

有限のリソースを割いて

撃退しなければならない厄介な障害。

プレイヤーに適度なストレスを

与えるのにちょうどいい。


ところで、自分で一からデザインできる

ゲームであれば自然災害クラスの存在として

スライムを登場させてみたいと思う。


森を飲み込み、村を飲み込み広がり続ける脅威。

それが都市へと迫りくる。

こんな状況、強大な魔法でもなければ

切り抜けることができないだろう。


魔法というファンタジー世界特有の切り札を

印象付けることのできる見せ場だ。

大魔法使いの強さを表現できる演出でもある。


それにしても、なぜあの有名作品では

身を守る毛皮も鱗も無く、

敵を殺傷する牙も爪も無い、か弱い存在に、

厄介なことで知られていたスライムという

怪物の名前を付けてしまったのだろう。


名前付け。ネーミングは

ゲームに登場するモンスターの制作に

必須の作業である。


何故その名前を付けたのか首を傾げたくなる

モンスターはあちらこちらで見受けられる。


ここはひとつ、次回は有名な怪物を例に挙げ、

モンスターの名称について

気になっていることを語ってみようと思う。



泉井夏風(シナリオライター)

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