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『ゲームの中の怪物たち』第二回 ベヒーモス 泉井夏風

ファンタジー世界を舞台にしたゲームには

ほとんどの場合モンスターが登場する。


モンスターたちはプレイヤーの操る

キャラクターの障害として立ちふさがり、

時には仲間になったりもする。


それぞれのゲームによって

モンスターの立ち位置は大きく変わるが、

ゲーム世界に欠かせない存在だ。


そんな脇役たちについて

ゲームを制作する立場から

思うところを書いてみたいと思う。



第二回は巨獣と呼ばれるベヒーモスを

叩き台として語ってみたい。


ベヒーモスは旧約聖書に登場する

地上で最大の体を持つ動物とされている。


なんでも創造神の最高傑作であり、

見事な姿かたちをしているらしい。


役割はなんと、最後の審判後の

正しき人々のための食料である。


しかし、地上最大の動物というフレーズが

ゲームデザイナーのイマジネーションを

刺激したであろうことは想像に難くない。


強大な力を持つ怪物として

様々な作品に頻出する。


さて、ベヒーモスは英語読みなのだが、

アラビア語読みではバハムートとなる。


バハムートは多くのゲームで

ベヒーモスとは別の存在として登場している。


最古のロールプレイングゲーム、

紙と鉛筆とサイコロで遊ぶゲームにも

善なる竜の神として描かれている。


食料から考えるとすさまじい出世だが、

こうした名前の拝借はままあることだ。


問題なのは、こうした神話生物の名前を

自作の怪物に名付けるオリジナリティではなく、

そうして生まれたモンスターが安易に

模倣されることが極端に多い点だ。


今や日本のファンタジーにおいて、

バハムートは竜の神や王、

もしくはそれに準ずるものとして

確固たる地位を築いている。


ゾウのような巨大な動物の怪物に

ベヒーモスと名付けても納得されるが、

バハムートと名付ければユーザーが

混乱するであろうレベルである。


バハムートは“すごいドラゴン”の

名前になってしまったのである。

これは最早カルチャーの領域だ。


ここまでになるとバハムートは

本当はドラゴンの名前ではない

などと言っても無粋なだけである。


個人的には使いたくない名前だ。

カラーが決まりすぎている。


この名前が陳腐化していると

考えるクリエイターは少なくないだろう。

しかし、わかりやすさを求める

プロデューサーやデザイナーは

こういった固定化された名前を好むように思う。


神話などの元ネタに準拠しているならいいが、

いわば二次創作作品の流用、

つまるところ三番煎じである。


多くのクリエイターは自分の

オリジナリティで戦いたいと

思っているだろう。


しかし、イメージの固定化された

既知の怪物を登場させた方が

圧倒的にユーザーフレンドリーである。


この兼ね合いが難しいところで、

例えばファンタジーの金字塔である

『指輪物語』で定義されたファンタジー世界の

住人たちの名前を使わなければ

説明そのものが困難になることすらある。


エルフやドワーフのイメージ。

民話や伝承とは異なるその姿が人口に膾炙し、

必要不可欠な要素となっているのは

知っておくべき文脈ではあるが、

クリエイターの怠慢という言葉が

頭をよぎってしまう。


若干逸れたが、今回の話の趣旨は

神話や伝承を一次創作とし、

そのアレンジである二次創作が

ゲームで活用されているものの、

三次創作となると怠慢ではないか

という私の個人的な考えである。


前述の通り、ユーザーのイメージしやすさは

大切な要素だ。


しかし、そこに胡座をかきつづけてはいけない。

そう、私は思うのである。



泉井夏風(シナリオライター)

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