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「島村洋二郎展―没後70年―」を終えて 島村直子

 2023年7月1日(土)~11日(火)、銀座のギャラリー枝香庵で島村洋二郎展が開かれました。そのご報告をさせて頂きます。

 2018年6月アートギャラリー884で洋二郎展を開いて以来、コロナ禍を挟み、5年ぶりの洋二郎展でした。そして、1956年サトウ画廊、1987年現代画廊に続く、銀座では3度目の洋二郎展です。

 親身になって準備を進めてくださったギャラリー枝香庵のオーナー荒井よし枝さん、スタッフの方々ありがとうございました。会場に駆けつけてくださった皆様、応援してくださった方々にも心より御礼申し上げます。



ヒロアキさんが作成してくれたリーフレットは、とても好評でした。


展示監修 小寺瑛広


 今回の洋二郎展は、日本近代美術研究者であり、『カドミューム・イエローとプルッシャン・ブリュー』の総論を書いてくれた小寺瑛広さんに、キャプション、展示などをお願いしました。

 作品数が多かったにも関わらず、会場の雰囲気とも良くマッチして、「見やすい」「作品が身近に感じられた」「作品の背景が良くわかり、理解が深まった」など、嬉しいお言葉が続きました。


 作品は、初期の作品から、晩年の作品が展望できるように、3つの時期に分けて展示されています。


*画業の始まり   1935-41 魂のモンパルナス、神楽坂 19歳―25歳


*生活か、絵か   1941-47 飯田、杉並、世田谷、横須賀、関 25歳―30歳


*洋二郎芸術の誕生、そして死 1947-53 恋の絵画、苦悶の絵画 31歳―37歳



洋二郎の20代作品は、今まで展示される回数が少なかったものも多く、かえって見る方には新鮮に映っていたようです。


展覧会初日


 初日から沢山の方が訪れてくれました。

 画家の木下晋さんも来てくださいました。

 1987年、銀座現代画廊で洋二郎展を開いたときから、木下さんはずっと会場に足を運んでくださっています。今回はご自身の個展のすぐ後でもあり、見て頂くのは難しいと思っていました。

 木下さんに書いて頂いた2013年洋二郎没後六十年展のリーフレット掲載文章は、『カドミューム・イエローとプルッシャン・ブリュー』210頁に載せてあります。どうぞご覧ください。


7月1日会場にて 木下晋さん


7月2日Event ヴァイオリン演奏と講演


 今回も、京都から洋二郎の姪の香西理子さんが駆けつけてくれ、ヴァイオリンの演奏をしてくれました。

 曲目は、「ニーナの死」「アメージング・グレース」「シューベルトのセレナーデ」「タイスの瞑想曲」の4曲。ピアノ伴奏は荒井真梨子さん。理子さんは、洋二郎の思い出話なども挟みながら、しっとりと演奏してくれました。真梨子さんと理子さんは、桐朋学園の同窓生で、不思議なご縁を感じずにはいられません。

 理子さん、真梨子さん、心に響く演奏をありがとうございました。尚、理子さんが洋二郎などの思い出を語った文章は、『カドミューム・イエローとプルッシャン・ブリュー』272頁に載っています。ぜひ、お読み下さいませ。


ピアノ伴奏の真梨子さん、ヴァイオリン演奏の理子さん


 演奏の後には、小寺瑛広さんの洋二郎作品についての講演がありました。豊富な資料が紹介され、洋二郎が沢山の先人画家たちから学びつつ作品を作り上げてきたことが語られました。

 晩年の作品にスポットが当てられることが多かった洋二郎作品ですが、このように、20代の頃からの作品にも目を向けて眺めていくと、その変遷が分かり、努力の人だったことが分かります。

 小寺さん、素晴らしい講演を、ありがとうございました。


リーフレットの威力


 ヒロアキさんが作成してくれた今回のリーフレットは、とても好評でした。

 メールに添付して送ると、「素晴らしいリーフレットですね」と、返信が来ました。

 手渡すと、「お~! 素敵なリーフレットですね。」と、返ってきました。

 一番驚いたことは、ギャラリーのビルの1階にある洋品店の店先に置かれたリーフレットに目を留め、わざわざ作品を観るために7階まで来てくれる方が、何人もいらしたことです。そして、熱心に観て頂けました。銀座という土地の面白さかなとも思いました。


ビル1階の店先に置かれたリーフレット


画家の心をつかむ


 画家の芥川麟太郎・すまる夫妻が来てくださったのは、2日でした。実に丁寧に作品をご覧くださいました。《横顔の女》、《婦人像》の前で、いつまでも立ち続けて見入る姿にはハッとさせられました。

 その後、麟太郎氏は、再度会場を訪れてくれました。真剣に『横顔の女』(今回新たに発見され、所蔵者の厚意で展示された)を見つめる眼差しには、声を掛けることが憚られるものがありました。


《横顔の女》クレパス 1953年頃


《婦人像》1943年頃 油彩


 『婦人像』では、「作品の内側から、光が差してくる」と語っておられました。


 初めて洋二郎作品をご覧になる方も沢山おられました。

 枝香庵での木下晋展のおり、置かれていた洋二郎展リーフレットを手にしたある画家さんは、鎌倉からわざわざ観に来てくれました。一つずつ丁寧にご覧下さるので、お声をかけ、初めて洋二郎作品を観て頂いたことを知りました。

 「こんなに絵に集中して観たのは、久しぶりです」

 そう語っておられました。


《幻想的風景》1943年油彩


 画家の藤山ハンさんは、1993年いのは画廊展以来、欠かさず洋二郎展を訪れてくれました。今回は2度会場に足を運んでくださいました。

 『眼の光』(土曜美術社)に「双星」(p193)と題した文章が載っています。是非ご覧ください。

 また、『カドミューム・イエローとプルッシャン・ブリュー』にも「黒猫化身―島村洋二郎へのモノローグ」という文章が載っています(142頁)。

 ハンさん自身がゴッホの信奉者であり、ゴッホの墓参りにも出かけている方です。

 ハンさんは、今回の展示が、会場にもぴったり合っていて素晴らしいと、褒めてくださいました。


藤山ハンさん。《猫と少年》の前で


朝日新聞の展覧会案内に掲載される


 7月4日の朝日新聞に展覧会案内が掲載されました。今回新しく発見された作品《横顔の女》もカラーで載りました。

 その案内を見て、画廊に来てくれたのは、何人かの友人たちでした。

 そのうちのSさんは、現代画廊、いのは画廊で見てくれた後、連絡が途絶えてしまい、今回のお知らせも送ることは叶わなかったのです。けれど、彼女は、朝日新聞を見てくれ、画廊に駆けつけてくれたのでした。

 お嬢さんも一緒でした。

 展覧会が終わってしばらくして、お嬢さんからメールが届きました。



 先日はうれしい再会でした。…ここ数年は体調を崩しやすく、もう都心には行けないと諦めていた母の心が動き、魔法のように元気にしていただきました、

 その後も購入した画集を読み「すごいすごい」と言って、毎日のように話題に上がっていますよ。


 私の20代前半までの記憶は断片的で少なめです。それでも洋二郎さんの絵はしっかり覚えています。目に焼き付いたコントラストとしては暗い記憶と明るい記憶がありました。なぜ二種類の記憶があるのだろうと思っていましたら、私は1993年に神保町(いのは画廊)でもお会いしていましたね。思い出すのに時間がかってしまいました。30年前ですね。

 1987年(現代画廊)の記憶が暗く、1993年の記憶が明るいのです。

 私はどちらの記憶の絵にも同じ温度で何か親しみを感じます。

 私は小学生ごろまで、大人の言うことは絶対で良い子であらねばならないという思い込みに、がんじがらめになって窮屈な子ども時代を過ごしました。

 そんな私がやっと外に目を向けられるようになった時、洋二郎さんの絵と出会って絵の中の一人一人に人間らしさを感じてホッとしたのだと思います。これは今回銀座(枝香庵)で感じたことで今現在の解釈ですが。

 私はその後も人物画は他に好んで見ることはないので、説明できない何かがあるのだと思います。

 絵との再会と直子さんとの再会に、私もとても元気をもらいました。・・・・


Sさん母、娘


 なんと嬉しい出会いだったことでしょう。

 お二人の素晴らしい笑顔に何度も見入ってしまう私です。

 今まで生きて来て、よかった。


8日土曜日、ギターライブ


 ストリートミュージシャンのカズさんのライブは、8日午後でした。練習中は会場の出入りが自由でしたので、作品を観ながら演奏に耳傾ける方もいました。

 本番は素晴らしい時間でした。

 マイクなしでギターを弾き、歌うカズさん。演奏に耳傾ける参加者。ときおり入るカズさんの語りに頷く人もいて、それぞれ自分の来し方を振り返っているような気配も感じられました。

 「一期一会」というのは、こういう時を指す言葉なのだと、改めて思いました。

 カズさんを取り囲むように飾られている作品が、絵から動き出して演奏を聴いているようだったと、伝えてくれた方もいました。

 カズさん、ありがとうございました。


                          *参加費は「国境なき医師団」に寄付させて頂きました。


2024年の展示は?


 先ほど登場した藤山ハンさんが、来年2024年1月19日~28日個展を開きます。ハンさんによると、人生最後の個展となるそうです。

 実は、ハンさんから、その個展会場に、「島村洋二郎特別出品」として、14,5点飾ってほしいとのお話がありました。

 1993年いのは画廊展で洋二郎作品に触れ、以来、よき理解者として、常に作品展会場に足を運び続けてくれた藤山ハンさん。そのハンさんの個展会場に、ハンさんの作品と共に洋二郎作品が展示できるというのです。思いがけない申し出に、私は大変驚きました。

 と同時に、会場となる、新宿東口のギャラリー絵夢の場所が、ヴェルテル喫茶店(洋二郎が最後にクレパス画個展を開いたところ。映画館武蔵野館のすぐ近くだった。)と徒歩1,2分の場所だということに気が付き、胸が震えました。


 今私は、大きな期待を持って、準備を進めています。

 一体、どんな空間が誕生するのでしょう。


藤山ハンー小さな回顧展:島村洋二郎特別出品

時 2024年1月19日~28日

所 新宿駅東口 ギャラリー絵夢


 是非、来年1月、新宿駅東口のギャラリー絵夢に、藤山ハンさんと洋二郎の作品を観にいらしてください。


(島村直子)

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