top of page

検索
Mikaboshi01
2022年2月27日読了時間: 4分
映画評論 影との逍遥 第十八回「スターフィッシュ」和泉萌香
以前友人とこのような話をした。世界が詩人で溢れたら戦争は無くなるのではないだろうか。私はなぜそう答えたかは分からないが、戦争が無くなる代わりに、皆が世界の美しい終わりを夢想するのではないかと答えた。世界の終わり。世界の終わり。時折このようなイメージを抱くことがある。人はひと...
Mikaboshi01
2022年1月29日読了時間: 5分
映画評論 影との逍遥 第十七回「ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23 番地 、ジャンヌ・ディエルマン」和泉萌香
――それぞれのショットに使われている時間を通し、見る人に身体的な体験をしてもらいたい。時間があなたの中で展開され、時間があなたの中に入ってくるという、身体的な経験をするために。 シャンタル・アケルマン 牢獄は鉄柵なしに存在する。拷問は猛毒や鞭なしに存在する。絶望は、緩やかな...
Mikaboshi01
2021年12月28日読了時間: 3分
映画評論 影との逍遥 第十六回「渚の果てにこの愛を」和泉萌香
ミムジー・ファーマーという俳優を初めて知った時、小麦色の肌を激しく照らす真っ白な残酷な陽光の中で開いたビー玉のような瞳に、ふとデヴィッド・ボウイの影を見た気がするのは、なぜだろう。短く輝くが艶は感じられない不思議なブロンドと中性的な顔立ちのほかに理由はあった。『渚の果てにこ...
Mikaboshi01
2021年11月28日読了時間: 4分
映画評論 影との逍遥 第十五回「やさしい女」和泉萌香
君のモデルたちにこう言うのは馬鹿げたことではない――「あなたの在るがままの姿に、あなたを新しく創造してあげましょう」と(ロベール・ブレッソン著「シネマトグラフ覚書」より)。 手のひらが、指先が。モノクロフィルムの中に現れる銀色の指が、カラー映像の中で現れる白い指は魚の腹を連...
Mikaboshi01
2021年10月31日読了時間: 4分
映画評論 影との逍遥 第十四回「影の列車」和泉萌香
アドルフォ・ビオイ=カサーレスの「モレルの発明」が好きだ。現実においてある特定の瞬間を生き直すこと、ある特定の時間と空間での永遠の生への希求は叶わないが、今の時間を放棄して命を「記録者」に託してしまいたいというのは、多くの人々が内に秘めた願いであるだろう。科学者モレルは恋が...
Mikaboshi01
2021年9月24日読了時間: 5分
映画評論 影との逍遥 第十三回「ポルト」和泉萌香
そこで生を送りたいと願うのはどのような場所だろう。迷い続けたいと願うのはどこだろう。永遠の眠りを託したいと願うのはどこだろう。きっとそのような部屋、空間は夢とも言い難いに違いない。例えば恋人が隣で眠る明け方に、やさしい魔物に誘われた朝も夜も知らない、秒針の先端の難破船なのか...
Mikaboshi01
2021年8月26日読了時間: 4分
映画評論 影との逍遥 第十二回「ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ」和泉萌香
「人生にはただ二つのものだけがあればいい。一つは可愛い女の子との恋愛。もう一つはデューク・エリントンの音楽。他のものはなくなってしまえばいい、なぜなら醜いから」 男二人を乗せて一台の車が走っている。ガタガタ音を立てたゴミ収集車のフロントにはチャーミングな笑みを浮かべる女性の...
Mikaboshi01
2021年7月30日読了時間: 3分
映画評論 影との逍遥 第十一回「ZOO」和泉萌香
TOKYO Olympic。東京オリンピック。おそらく誰もが毎日(聞きたくもないのにだ!)耳にしているであろうその言葉、その単語には並んだOが二つ。じめじめと陰鬱な街に掲げられた巨大な広告では、まだ東京オリンピック2020のまま。ぽっかり穴があいた文字面、空洞は不条理な現状...
Mikaboshi01
2021年6月23日読了時間: 4分
映画評論 影との逍遥 第十回「裸のランチ」和泉萌香
「あらゆる理性的な思考を殺せ。」 ブラウンのスーツにストライプのシャツ、中折れ帽。真にヤバい人間ほどスタイリッシュな装いに身を包んでいる。セットアップや革のコート、パリッとしたシャツにベスト。『裸のランチ』原作者ウィリアム・バロウズの写真は、その無表情で灰色の肉の顔面からは...
Mikaboshi01
2021年5月26日読了時間: 5分
映画評論 影との逍遥 第九回「地球に落ちて来た男」和泉萌香
ある感傷を持つ者たちがいる。一度太陽まで舞い上がり、堕ちてなお生き続ける者たち、そのような宿命を持つ者たちが持つ感傷というのは冷たくてある種優しく、透徹している。彼はその星から落っこちてきた。水が枯渇した惑星から遥々落ちてきた、ニュートンという重力を感じさせる名前を名乗る男...
Mikaboshi01
2021年4月27日読了時間: 4分
映画評論 影との逍遥 第八回「ヘカテ」和泉萌香
ダニエル・シュミット監督作品、『ヘカテ』が2021年4月、デジタル・リマスター版でリバイバル・ロードショーされる。蜜がふくよかに詰まり、はちきれそうな暗闇、蝋燭の炎がゆらめく中で、格式高い装いの男女が言葉を交わし合っている。白いスーツに身を包んだ端正な男—フランスの二枚目俳...
Mikaboshi01
2021年3月25日読了時間: 4分
映画評論 影との逍遥 第七回「秘密の子供」和泉萌香
ポスト・ヌーヴェル・バーグの映画作家、フィリップ・ガレル。彼のインタビュー本「心臓の代わりにカメラを」において、レオス・カラックスはガレル監督作品『秘密の子供』(1979)についてこのように書いている。「大気が冷たい。カールのかかった髪を通し、男は女を見つめる。二人は一緒に...
Mikaboshi01
2021年2月25日読了時間: 5分
映画評論 影との逍遥 第六回「ベティ・ブルー 愛と激情の日々」和泉萌香
青が浮かび上がる。濃密な青だ。全てが詰まっていると思わせ、心が海に包まれて澄み切っていくような青、最も美しい夢の子宮を思わせる青、感傷は無く、穏やかに深い思考へと誘うような青が。ガブリエル・ヤレドの音楽が美しい孤独に口付けられた夜に寄り添う様に流れ出す。本作の登場人物、激し...
Mikaboshi01
2021年1月27日読了時間: 5分
映画評論 影との逍遥 第五回「インディア・ソング」和泉萌香
映画は動くものだ。物語、起こることを流動する暗闇と光と色彩で描くものだ。『インディア・ソング』(1975)の映像は、登場する彼らは、太陽であってさえも、ぴたりと凝固したように静止し、時折緩慢に動きを見せるだけだ。あなたの沈黙、胸が張り裂けそうな彼女の沈黙は、泣き声は、眩暈は...
Mikaboshi01
2020年12月21日読了時間: 4分
映画評論 影との逍遥 第四回「エンジェリック・カンヴァセーション」和泉萌香
ふくよかな漆黒、視線に向けて眠りなさいと微笑むかの如く横たわった深く底しれず、そうして優しい漆黒に、赤銅色の炎が舞う。黄金色の輪郭を与えられて物憂げな横顔を晒す青年。水飛沫が非現実の美をたたえ煌めいている。炎があり水があり土がある。そんな荒凉とした地を彷徨い、金網に愛撫され...
Mikaboshi01
2020年11月18日読了時間: 4分
映画評論 影との逍遥 第三回「私の夜はあなたの昼より美しい」和泉萌香
とある場所で男と女が出会う。街角であってもカフェであっても、バーや映画館であってもいい。その出会いが単に一晩、一日だけの関係で終わりを迎えるものでも、あるいはそれから何日も何年もかけて物語を育んでゆくものでもなく、愛、そのもの自体に用意された出会いだったとしたら。日常になる...
Mikaboshi01
2020年10月29日読了時間: 3分
映画評論 影との逍遥 第二回「ストリート・オブ・クロコダイル」和泉萌香
雨も日光もまるで人工の現象のような、不感症のアスファルトに覆われた都市、電飾の器官が昼にも夜にも張り巡らされて人々の眼球に無性格の表情を押し付ける都市。地下鉄の曇った琥珀色の光、ビルの狭間で息を潜める木々の緑、ずっしりとした重さからかけ離れた陳腐な砂糖菓子のような言葉と色が...
Mikaboshi01
2020年9月25日読了時間: 4分
映画評論 影との逍遥 第一回「去年マリエンバートで」和泉萌香
まるで取り憑かれた様に何度も何度も、その世界で眠りに落ちたいと願わせる様な映画がある。『去年マリエンバートで』が持つ重力は絶対孤独の位相にて咲く絢爛の美である。紛れもない愛の映画でありながら、体温が通った官能は葬られ、流れていた血も凍結し、モノクロの画に散らばって輝く。不滅...
bottom of page